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2026年8月24日
夏の終わりの夜、空を見上げると、暗闇の中に輝く二つの星が見えます。肉眼でもはっきりと確認できるその星は、天の川の西側にきらめく織姫星(ベガ)と、東側に輝く彦星(アルタイル)です。二千年以上にわたり、中国ではこれらの星を、離れて生きる運命を背負いながらも、七夕の夜に年に一度だけ再会する恋人たち、織女と牛郎(日本でいう織姫と彦星)になぞらえてきました。今年、ケリングの6つのブランドは、この時代を超えて語り継がれる伝説をそれぞれ独自の視点から解釈し、星々が結ぶ愛の物語を描き出しています。
七夕の物語が初めて登場する『詩経』は、中国最古の詩集として知られています。その物語は、天界に住む機織りの仙女である織女が、人間の牛飼いである牛郎と結ばれたことから始まります。二人は天と地の間で共に暮らしていましたが、やがて天界の秩序によって引き離され、天の川の両岸に隔てられてしまいます。しかし、旧暦7月7日の夜だけは、かささぎたちが天の川に橋を架け、恋人たちの再会をかなえます。そして鳥たちが飛び去ると、二人は再び離れ離れになるのです。
何世紀にもわたり、七夕は女性らしさにまつわる伝統的な価値観と結びつけられてきました。天上で織った布が雲になると信じられていた織女にあやかり、女性たちは知恵や器用さ、裁縫の上達、そして幸せな結婚を願って祈りを捧げてきました。
しかし、織女は単なる理想化された美徳の象徴ではありません。彼女は天界の秩序に逆らう恋を自ら選び取り、その代償として年に一度しか会えない運命を受け入れます。それでも再会を望み続けるのは、それ以外の選択肢が永遠の別れを意味するからです。現代的な視点から見れば、七夕は距離と再会、選択とその結果、待ち続けることと希望を描いた物語として捉えることができます。そして、この伝説において愛とは、勇気をもって選び取るものとして描かれているのです。
こうした多様な解釈を受け入れる懐の深さこそが、七夕が今日まで人々に親しまれ続けてきた理由の一つです。中国文化を象徴する重要な年中行事の一つである七夕は、現在では春節に次ぐ中国を代表するギフトシーズンへと発展しました。その位置づけは、西洋におけるバレンタインデーにも通じるものがあります。
2010年代半ば以降、ラグジュアリーブランドは七夕を、中国文化との対話を深めるストーリーテリングの機会として積極的に取り入れるようになりました。そして2010年代の終わりには、七夕はグローバルなラグジュアリーブランドにとって重要なマーケティング機会として定着しました。現在では、8月の七夕を前にした7月中旬からキャンペーンが展開され、その規模や表現の幅は年々広がりを見せています。
特に印象的なキャンペーンは、この伝説に新たな解釈を加えるものです。伝統への敬意を保ちながら、そのモチーフに新たな意味を見いだしています。また、それらが描くのは単なる恋愛だけではありません。友情や自己表現、自ら選ぶ親密なつながり、そして感情的な自立にも目を向けています。そこには、愛を結婚の約束以上のものとして捉える、現代の中国の人々の価値観が反映されているのです。
こうした文化的な豊かさと多層的な意味合いこそが、ケリングが七夕に惹かれる理由です。ファッションとジュエリーの分野において、グループを代表する6つのブランド、グッチ、バレンシアガ、ボッテガ・ヴェネタ、サンローラン、キーリン、ブシュロンは、この伝説をそれぞれ独自の視点から解釈しています。
グッチは、2026年のキャンペーンを通じて、思いがけない形で訪れ、人生を豊かに彩る愛を描いています。着想源となったのは、中国で人気を集めるショートドラマです。『For the Love of Drama』と名付けられたキャンペーンは全3話で構成され、ショートドラマ特有のユーモアや意外な展開、ドラマチックな感情表現を取り入れています。駅のホームでの偶然の出会い、雨の中での再会、そして主人公の女性が装いを新たにして現れる同窓会。光を受けて輝く〔ホースビット〕ピアスと、肩に掛けた〔ジェットセット GGマーモント〕バッグが、その物語を彩ります。
サンローランもまた、アンソニー・ヴァカレロによる「Love Letters, Love Matters」を通じて、華やかな演出を取り払い、愛そのものに焦点を当てています。武術家であり映画界の伝説でもあるブルース・リー、社会学者の李銀河(リー・インハー)、そして詩人の徐佩芬(シュー・ペイフェン)が残したラブレターをもとに制作された映像作品では、憧れや献身、そして愛を綴った言葉の数々が、ジェレミー・Z・チンの演出によってよみがえります。また、中国人フォトグラファー No.223(林志鵬〈リン・ジーポン〉)によるスチール作品には、中国限定アイテムが登場します。その中には、サンローランを象徴するダヴ(鳩)のモチーフ、カサンドラロゴ、そして数字の「7」を組み合わせた新たなゴールドトーンのチャームも含まれています。これは、織姫と彦星、そして距離を超えて続く愛へのさりげないオマージュです。さらに、No.223(林志鵬)による別シリーズの写真展も、8月6日より北京のサンローラン リヴ・ドロワ サンリトンにて開催されています。
ボッテガ・ヴェネタもまた、別れと再会のあいだに広がる情緒を描き出します。『A Thread of Love』と題されたキャンペーンは、織姫と彦星の物語さながらに、出会い、すれ違い、そして再び結ばれる二人の主人公を描いています。星明かりが永遠の愛を象徴する糸として紡がれていく情景を詠んだ、オリジナルの詩とともに展開される本キャンペーンでは、移ろう光や意外性のあるアングル、親密なクローズアップを通じて、2026年フォールコレクションの緻密なディテールが映し出されます。その卓越したクラフツマンシップは、このキャンペーンの中心にあるメタファーとも響き合っています。一つひとつの糸が織り重なり、個では成し得ない価値を生み出していくという考え方です。さらに、この物語はキャンペーンの枠を超えて展開されます。中国人アーティストの薛征(シュエ・ジェン)によるパブリックインスタレーションでは、テキスタイルに着想を得た造形を通じて、人と人とを結ぶ絆への思いが表現されています。
実生活でもパートナー同士であるルオ・ウェイとリー・リンを起用したバレンシアガのキャンペーンは、初恋ならではの素直で飾らない想いを表現しています。ウォッシュド加工を施したブラックとホワイトを基調とするプレタポルテのカプセルコレクションには、「I <3 U」「I <3 U 2」という手書き風のメッセージがあしらわれています。また、スペシャルエディションとして登場するブラックスエードの「ル・シティ モト」バッグには、ノートの落書きを思わせるリボンや矢の刺さったハートのモチーフが飾られ、初恋の相手に向けて描いたいたずら書きのような、遊び心あふれる世界観を表現しています。
ブシュロンは七夕を、自分自身を慈しみ、内なる想いとの深いつながりを祝福する機会として再解釈しています。メゾンを象徴する「プリュム ドゥ パオン」は、新たな意味をまとい、自己らしく輝きながら、思い描く未来へと羽ばたくことを象徴するシンボルとして生まれ変わりました。2026年の中国七夕キャンペーン『Fly High, a Life of Fulfillment』では、グローバルブランドアンバサダーのチョウ・ドンユィが、風が吹き抜ける都会のルーフトップを舞台に登場します。羽根本来の優雅なフォルムと軽やかさを繊細な透かし細工で表現した「プリュム ドゥ パオン」をまとい、広がる空の下を軽やかに舞います。やがて彼女の手を離れたクジャクの羽根は大空へと舞い上がり、現代的に再解釈された七夕の物語は、一人ひとりがありのままの自分を受け入れ、自らが思い描く人生へと羽ばたく姿を描いています。
一方、キーリンは、七夕に込められた幸福への願いと、その物語の中心にある恋人たちに着想を得ています。ブランドを象徴する「Wulu」コレクションには、初めて紫翡翠(パープルジェダイト)が採用されました。18Kローズゴールドとダイヤモンドで彩られた各ピースは、古くから吉祥の色とされる紫色をまとい、幸運と自信をもたらす現代のお守りとして表現されています。また、透明感のある質感と、水墨画を思わせる独特の風合いを備えた紫翡翠は、キーリンならではの美意識と卓越したクラフツマンシップを体現しています。
映画のようにドラマチックな表現から、親密で繊細な物語、遊び心あふれるアプローチ、お守りのような象徴性まで。6つのブランドはそれぞれの視点から、七夕という時代を超えて受け継がれる伝説を解釈しながら、その根底にある感情に誠実に向き合っています。そして、これらのキャンペーンが示しているのは、単なるマーケティング施策にとどまりません。そこには、中国文化を今も進化し続ける創造的な力として捉え、その豊かさと向き合い続ける姿勢が表れています。
こうした対話は、2013年にキーリンがグループへ加わって以来、次世代の中国人デザイナーを支援するため上海ファッションウィークと共同で立ち上げた「Kering CRAFT」、さらに「House of Wonders」のもとで実現したアイシクル(ICICLE)との戦略的パートナーシップなどを通じて、着実に深められてきました。そこから生まれたのは、伝統を受け継ぐだけでなく、新たな解釈を通じて未来へとつないでいく関係性です。受け継がれた文化遺産を尊重しながら、そこに新たな意味を見いだしていく取り組みとも言えるでしょう。
旧暦7月7日の夜、織姫と彦星は、これまでもそうであったように、天の川を隔てて再び出会います。しかし、その物語に私たちが見いだす意味は、必ずしも昔と同じである必要はなく、今を生きる私たちによって新たな解釈が生まれ続けているのです。